福岡高等裁判所 昭和58年(行コ)2号 判決 1984年5月16日
昭和五七年(行コ)第三八号事件控訴人、
昭和五七年(行コ)第四〇号・昭和五八年(行コ)第一号・
同第二号各事件被控訴人(以下「一審原告」という)
小峠富生
右訴訟代理人
中尾晴一
臼井俊紀
昭和五七年(行コ)第三八号事件被控訴人、
昭和五八年(行コ)第一号事件控訴人(以下「一審被告」という)
添田町外三ケ町村
清掃施設組合組合長
山本文男
昭和五七年(行コ)第三八号事件被控訴人、
昭和五八年(行コ)第二号事件控訴人(以下「一審被告」という)
川崎町長
小田要
右両名訴訟代理人
稲澤智多夫
昭和五七年(行コ)第三八号事件被控訴人、
昭和五七年(行コ)第四〇号事件控訴人(以下「一審被告」という)
田川市長
滝井義高
右訴訟代理人
田邊俊明
主文
一 本件各控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は各自の負担とする。
事実
一 一審原告は、控訴の趣旨として「原判決中一審原告敗訴部分を取り消す。一般廃棄物処理業(し尿、汚泥)許可について、一審被告添田町外三ケ町村清掃施設組合組合長(以下「一審被告組合長」という)が一審原告の昭和五六年四月一〇日付申請に対して同月二〇日にした不許可処分、一審被告川崎町長が一審原告の同年三月二七日付申請に対して同年四月六日にした不許可処分、一審被告田川市長が一審原告の同年三月三〇日付申請に対して同月三一日にした不許可処分をそれぞれ取り消す。訴訟費用は第一、二審とも一審被告らの負担とする。」との判決を求め、一審被告らの各控訴につき「本件控訴を棄却する。控訴費用は当該一審被告の負担とする。」との判決を求めた。
一審被告らは、各控訴の趣旨として「原判決中当該一審被告敗訴部分を取り消す。一審原告の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも一審原告の負担とする。」との判決を求め、一審原告の控訴につき「本件控訴を棄却する。控訴費用は一審原告の負担とする。」との判決を求めた。
二 当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり削除し、付加するほか、原判決事実摘示及び本件当審記録中の書証、証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
(一) 原判決五枚目表四行目の「同被告は、」を削除し、同七行目の冒頭に「当該市町村による」を加える。
(二) 一審被告らの当審における新たな主張
1 一般に、し尿浄化槽清掃業者には、し尿浄化槽を清掃した結果引き抜いた汚泥について、これを収集し、運搬し、処分するなど適切に処理する責任があり、右責任は、通常の場合、当該清掃業者が併せて法七条に基づく一般廃棄物処理業の許可申請をし、その許可をも得ることによつて適法に解決されている。
2 しかしながら、一番原告については、同人が同時に申請していた一般廃棄物処理業の許可は与え得ない場合であるから、一審原告は、たとえし尿浄化槽清掃業のみの許可を得、同清掃業のみを行う意志であつたとしても、右清掃の結果引き抜かれた汚泥の収集、運搬、処理については、既存の許可を得た処理業者と委託契約を締結して処理して貰うか、又は自己において適正に処分するかしなければならないものである。
3 しかるに、一審被告らの調査する限りでは、一審原告に右のような汚泥の収集、運搬、処理についての現実の確定的方策は全く見出せなかつたので、このままし尿浄化槽清掃業を許可すれば、一審原告は、清掃の結果引き抜いた汚泥をその場に放置ないし不法に投棄することになりかねず、公衆衛正上不適正な行為にでるおそれが強いと判断された。
4 よつて、一審被告らは、一審原告のし尿浄化槽清掃業許可申請につき、法九条二項二号において準用する法七条二項四号ハに該当すると認めて、これを不許可処分にしたものである。
理由
一当裁判所も、原審と同様、一審原告の本訴各請求中、各し尿浄化槽清掃業不許可処分の取消しを求める部分は理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり改め、付加するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。
(一) 原判決七枚目表八行目の「規定がある。」の次に「つまり、一般廃棄物処理業とし尿浄化槽清掃業の各許可基準は、厚生省令で定める技術上の基準に適合すること及び欠格要件に該当しないことの二つの点で共通しているが、一般廃棄物処理業の場合には更に法七条二項一、二号の要件が加えられている。」を挿入する。
(二) 同八枚目表一〇行目冒頭から同一二行目末尾までを次のとおり改める。
「以上に照らせば、許可申請が法定の基準に適合しているか否かを認定する段階(要件審査)においては、法七条一項の一般廃棄物処理業の場合は、同条二項一、二号が相当幅の広い要件を定めていることからして、これに該当するか否かの判断につき市町村長等に前記のように広範な裁量権が認められるというべきであるが、法九条一項のし尿浄化槽清掃業の場合は、主として技術的観点からの要件を定めるにとどまるものであるから、法規の定める範囲内で若干の裁量は認め得るにしても、右のように広範な裁量権を認める余地はないといわざるを得ない。
次に、右基準に適合していると認定される場合でも、なお市町村長等に許可不許可の裁量権が認められるべきか否かの点についてみるに、法七条二項及び九条二項が「市町村長は、前項の許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。」と消極的な規定の仕方をしていることから、右裁量権は否定されないとの解釈も成り立ち得ないわけではないようであるが、右許可は講学上の許可(禁止の解除)と解されるから、許可にかからしめた営業の制限は必要最小限度にとどめられるべきものであり、したがつて、右基準に適合していると認定される限り、市町村長等は必ず許可すべき拘束を受けるものと解するのが相当である。
結局、法七条一項の一般廃棄物処理業の許可は、その申請が法定の基準に適合するか否かを認定する段階(要件審査)での自由裁量が認められる意味において自由裁量行為であるが、法九条一項のし尿浄化槽清掃業の許可は覊束裁量行為であるといわなければならない。」
(三) 同九枚目表八行目の「衛生会」を「衛生舎」と、同裏七行目の「三万〇一〇〇」を「二万九〇〇〇」と、同一〇行目の「月一回」を「し尿は月一回、汚泥は年一回」と各改める。
(四) 同一一枚目裏六行目の「申請した」を「申請をした」改め、同八行目の次に改行して次のとおり付加する。
「更に、一審被告らは、一審原告に対し一般廃棄物処理業の許可を与えないでし尿浄化槽清掃業のみを許可すれば、一審原告は、清掃の結果引き抜いた汚泥を如何に処理するか現実の確定的方策がない以上、その場に放置するか不法に投棄することになりかねず、公衆衛生上不適正な行為にでるおそれが強いと判断されたので、し尿浄化槽清掃業の許可申請についても、法九条二項二号において準用する法七条二項四号ハに該当すると認め、これを不許可処分にした旨主張し、当審証人宇都宮昭生、同廣畑智子の各証言中には右主張に副う部分がみられる。しかしながら、本件全証拠によるも、一審被告らが右不許可処分をするに先立ち、一審原告に対し、一般廃棄物処理業の許可が得られない場合に右汚泥の処理方法につき適切な方策を有するか否かを尋ねた形跡は全く窺えないのであつて、かかる事実からすれば、一審被告らが一審原告において右方策を有するか否かを調査検討したとの点は甚だ疑問といわざるを得ない。却つて、原審及び当審における一審原告本人尋問の結果によれば、一審原告において右汚泥の収集等を他の業者に委託して処理する方策がなかつたわけではないことが認められるから、し尿浄化槽清掃業の許可申請につき、一審原告が一審被告ら主張のように前記法七条二項四号ハ(その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者)に該当したとは、到底認めることができない。」
(五) 同一一枚目裏一〇行目の「三項」を「三号」と、同一二枚目表一一行目の「証人藤川武夫、同」を「原審及び当審証人」と各改め、同末行の「しかし、」の次に「し尿浄化槽清掃業の許可を申請した者が許可の要件であるバキューム車を所有していない旨述べるということは、明らかに自己矛盾的言動であつて通常考えられないことであるし、」を、同裏三行目の「丙」の前に「乙第六号証の一、二」を各挿入し、同一二行目の「原告」から同末行の「として」までを「右許可に異議のある地元業者らから売主の神奈川三菱ふそう自動車販売株式会社に対し、右自動車を買い戻すよう圧力がかかつたので、一審原告は、同社の求めに応じて」と改める。
(六) 同一三枚目表二行目の「受領したこと」の次に「、また、原審証人宇都宮昭生の証言によれば、光代の右許可申請に対しては、一審原告の本件許可申請日である同年三月三〇日に不許可通知がなされたこと」を、同六行目の「思われる」の次に「(なお、原審証人宇都宮昭生の証言中にも同趣旨に解される部分がある)」を各挿入する。
(七) 同一三枚目表六行目の「前顕」から同裏九行目末尾までを次のとおり改める。
「しかるところ、前顕甲第四号証の一、五、六、原審及び当審における一審原告本人尋問の結果によつて真正に成立したと認められる同第一二ないし第一四号証、第二〇ないし第二五号証、成立に争いのない丙第二〇号証の一、二、右一審原告本人尋問の結果並びに当審における調査嘱託の結果によれば、一審原告の一審被告田川市長に対するし尿浄化槽清掃業許可申請書に添付された使用器材明細書には、種類「し尿浄化槽清掃車」、数量「二トン」、備考「四輪車三台(一台は予備車及びし尿収集)」とのみ記載されていたこと、一審原告は、昭和五六年三月中旬、兵庫三菱ふそう自動車販売株式会社から関西衛星工業所を介して、車名及び型式「三菱K―FE一一一B」、車台番号「FE一一一B七三六三八」・「同七二八四六」・「同一二四七四」の三台のバキュームカーを代金合計八一〇万円で購入し、同月二三日右代金を完済し、同年四月初めにその引渡しを受けたこと、一審原告が右バキュームカーを関西衛生工業所を介して購入した形をとり、且つ、右許可申請書添付の使用器材明細書にバキュームカーの型式等を具体的に記載しなかつたのは、前記光代申請の場合のような妨害を避けるための配慮によるものであり、格別他意はなかつたこと、一審原告は、右許可申請後、右一審被告からバキュームカー所有の有無につき格別尋ねられなかつたので、右のような事情を同被告に告げることもしなかつたこと、以上の各事実が認められ、成立に争いのない丙第二一号証及び前掲証人宇都宮昭生の証言中右認定に反する部分は、前掲その余の各証拠に比照し到底信用し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
そして、一審被告らは、以上のほかに、一審原告のし尿浄化槽清掃業許可申請につき法九条二項一、二号に適合しない事由があつた旨の主張をしない。」
二よつて、原判決は相当であつて、本件各控訴はいずれも理由がないからこれを棄却すべく、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条本文、八九条、九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。
(美山和義 谷水央 江口寛志)